臓器のハンコにスーツを着せるていねこ って何者?

ていねこ は2021年10月にNFTを始め、そこで初めて自身の作品を、元々知り合いでない方に買って頂くという経験をしました。それまでは単に「消しゴムはんこが趣味の、休職中の医師」でした。
この度、2022年3月20日でコレクション”Organ Heads“を完結させることにしたので、これを機に自身の考えをまとめつつ、「ていねこ って何者?」にお応えできるような記事を書きます。
Organ Headsの話はそんなにしません。長くなるので。

この記事の内容
1. ていねこ が作家になった理由
2. ていねこ がバイリンガルなのにあえて日本向けに売る理由
3. ていねこ の今後

Organ Headsコレクション後半戦のラインアップ

ていねこ が作家になった理由

作家説明にも書いていますが、私は小中高を海外で過ごし、縁あって日本で医師免許を取るに至りました。
海外で生活していた頃から最低週に1回の日本語教育は受けていましたが、19歳で13年ぶりに日本で生活し始めた当初は難しいことがたくさんありました。
まず帰国前に母親から「あんたは見た目も名前も国籍も日本人だけど、中身は全然違うからね。」と言われていたのですが全くその通りで、逆に見た目や名前が白人のそれであればしなかった苦労もあっただろうなと思います。

「自分は何人なんだ?」という葛藤や「どうして周りにうまく馴染めないんだろう」という苦悩は言語で説明し難いこともあり、いつしか絵を描くようになり、描けば誰かに見てもらいたくなり、10年近くtumblrを更新していました(一応リンクは貼りますがもはや黒歴史なので・・・)
Tumblrには私のささやかな怒りやふとした気付き、忘れたくない感謝や大きな心の動きまで、なんでもその時選んだ媒体で記録していました。ノートの落書き、ヘッドホンにマジックで描いたもの、また日本語の練習を兼ねた記事も公開しました。そうして「自分の中身を作品にして、人に見てもらう」ことを一連の昇華のプロセスとして確立したように思います。

大学4年生までには徐々に日本語と日本人らしくする技術が上達し、以前のように思い悩むことはなくなりました。ちょうどその頃、医師になるための、教室を出た具体的な実習が始まりました。
治らない病や死に向かう実感を日々我が事として抱えている人たちと日常的にコミュニケーションを取りながら、近い将来自分はこの人たちの問題に直接向き合う仕事に就くのだという自覚が芽生えていく体験はまた筆舌に尽くし難いものでした。
しかしこの気持ちもいずれは慣れて薄れていくものだと分かっていて、それはあまりにも切なくて、だから絵を描き続けました。必然的にこの頃から人体・医学にまつわる作品が増えました。

大学5年次に描いた、神経内科実習の感想として描いた絵。もちろん指導医には見せていない。

医師になってからも心が大きく動くことはありましたが、個々に向き合った患者さんとの間に生じる、超個人的な経験が元になったり、学問的な学びが伴ったりと、絵にできるような機会は減りました。
というか、忙し過ぎて気持ちをちゃんと込めたような絵が描けなくなりました。
そんな時に出会った媒体が消しゴムはんこで、気軽に彫れて出来上がりがおしゃれだな〜という軽い気持ちで始めたものでした。こんなにのめり込むとは。

と、いうわけで(すでに長い)、ていねこ は生きて心の動きを自覚する限り、作品を作り続けるのだと思います。
ずっと趣味で続けていくつもりでしたが、休職を期に自らの身の振り方というか、働き方を考え直す機会を得たことが作家になるきっかけとなりました。
作品をSNSに公開しているとわかるのですが、自らが込めた想いや世界観は、無料で公開するよりも作品を販売した方が拡散されるものです。マーケットに出す=想いを届ける大義名分を得る のだなあと実感し、いろんな売り方を模索した結果、たまたまClubhouseで仲良くなった方々が始めたNFTについて知り、このビッグウェーブに乗ることにした次第です。

なので、実は私にはWeb3.0に対するビジョンも、NFTを通じて作り上げたいコミュニティも、自身の作品に長期投資的な価値を持たせる気概もないのです。
ただ言えることは、NFTはおそらく私のような生き方をする人間には合っていて、また「医師免許を持つバイリンガル消しゴムはんこNFT作家」は今のところ世界に私だけのようです(スペイン語は少ししか話せないのであくまでバイリンガルです)。

ていねこ がバイリンガルなのにあえて日本向けに売る理由

前述した通りの育ちで、英語と日本語は今やほぼ同等にネイティブです。
翻訳サービスもちゃっかり展開しており、ご贔屓にして頂いている作家さんもいらっしゃって大変ありがたい限りです。
これもNFTに参入したことの利点で、これまで趣味作家の医師として全く関わる機会のなかった、ハイレベルな商業作家さん・デザイナーさん・コレクターさん達と日常的に話すことができて日々大変刺激を得ています。近頃ちょっと刺激的すぎるので時間など制限していますが・・・。

閑話休題、つまり私には英語圏に向けて作品を売る能力があります。というか育った文化圏が完全に米国と一部東南アジアなので、そこにターゲットを絞ることもできるでしょう。
しかし私は日本で、日本人に向けて売りたい。私の作品を知って欲しい。

これは私が医師を志した過程にも関わることです。

日本の医学部に入った当初は、全く周りに馴染めなくて「こんなところにいられるか!卒業したらさっさとアメリカの医師免許も取ってニューヨークに戻るぜ」と思っていました。
このあたりは休職前に応じたインタビューでも話しているのですが(本名と顔と勤め先が出ているので見たい知り合いの方がいたら個別に送ります)、紆余曲折あって「日本やばい!」と思い、日本で医師として働くことにしたのです。

簡単にいうと、日本には「困った時にとりあえずなんでも相談できる医者」があまりにも少なくて、それが少子高齢化社会において医療費を圧迫したり、たらい回しの一因を作ったりしています。そこに危機感を感じ、家庭医(総合診療医)になろうと決めました。

残念ながら専門研修の過程である日突然病気になって働けなくなり、しかも最悪なことに自分が一番好きで得意だった診療ができなくなってしまいました。幸い、職場の理解と相性の良い主治医を得て、総合診療と同じくらい興味のある研究・教育領域で復職が決まりましたが、一年半の長〜〜〜い休職期間で色んなことを知り、考えました。

まず、日本全体のメンタルヘルスに対するスティグマ(偏見)は未だ根強いもので、当事者の語りも欧米と日本では日本の方が自嘲を含む割合が多いように感じます。
また、昨今のパンデミックから「体調不良時は休む」という風土が徐々に確立されつつありますが、やはり学ぶ世代〜働く世代の自らの体に対する関心は薄いな、と思います。

しかし上記に述べた風潮はある意味日本の空気感の中で自然に発生しやすいもので、直接対話を重ねていくと実際に自嘲していたり関心が薄かったりするわけではないことが多いです。
要するに意識して考えなければ、消極的に自らを下に見たり、大事にすることを怠ったりしてしまいやすい世界で暮らしているのです。
日本人は真面目で勤勉で・・・と言われる所以にも関わっていると思うのですが、半分外から見ている身としては「もっと自分自身のことを考えて欲しい!」と思うことが毎日のようにあります。

だからこそ、日本国内で私の作品を広めたい。
作家説明にも書いている通り、私の制作のコンセプトは

『みんな持ってるけどみんな違う』あなたの体を作り、支えるものたちに思いを馳せて欲しい

です。要するに、私の作品を見た方が、「自分の臓器はこうで〜」って考えるだけでも、少し日本全体の「自分を大事にする」度合いが増すと思ってやっています。
日本人(主語が大きい)、もうちょっと自分を大事にしてください。

ていねこ の今後

いよいよ長くなってきたのでここは手短に・・・

まあ臓器にスーツを着せたのに深い理由はなくて、私の世界観への入り口になればなんでもいいと思ってこのコレクションを作りました。
私の作品を今所持してくださっている方のほとんどは、作品自体よりも私とSpaceで話して、なんか面白いと思ってくださったことが購入のきっかけになったのではないかなと思います。

そういったことと、あと4月からは本業に時短で復職することを踏まえて、活動の仕方は大きく変わることはないと思います。

あくまでハンコ作家であることを主軸にしつつ、世間にアウトリーチしやすい媒体としてNFTでの活動を続ける。知ってもらうためには売る。しかし本業と体力のペース配分を優先する。

修士論文も書いてますからね・・・。これについては書き終わったら(!)詳しく紹介したいと思っています。9月ごろになります。

色々書きました。ほんとに、ここまで読んでくださった方には本当に感謝してもしきれません。ありがとうございます。

今後もていねこ をよろしくお願いします。自分大事に!

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